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関わる人全員本気の殴り合い。真剣勝負のフレンチ特集。

自分史上最高ブルータス #8 平野紗季子(フードエッセイスト)

No. 399(1997.12.01発行)
東京・関西7,000円以下のフレンチを判定する。
No.399 1997年 12/1号 『BRUTUS』 特集「フランソワ・シモン再び! 東京・関西7000円以下のフレンチを判定する。」

ファミレスから高級店まで、あらゆるジャンルの食について独自の観点から考察し続けるフードエッセイストの平野紗季子さん。今、もっとも眩しく映る特集は、批評家とシェフ、製作者全員が本気でぶつかり合い、日本のレストランを全力で再検証したこの1冊です。

日本のレストランを再検証した96-97年の食特集。

 大学生の頃、暇だったのでいろんな雑誌の食の特集を読みまくっていたんですが、特に興味深かったのがBRUTUSでした。創刊当初の80年代は「ロマネコンティでザワークラウトを作るのじゃ」と言ってのけたり、「トゥールダルジャンに通うことがスーパーサラリーマンへの道」と説いたり、キャビアを食パンに山盛りのせて頬張る表紙があったりして(塩分〜!)、あまりのバブリー破天荒っぷりに衝撃を受けました。それで創刊から現在までの食特集のタイトルをExcelにまとめて変遷を追ってみたりして(まじで暇)。当然、特集テーマも時代の流れを敏感に察知して180度くらい変わっていくのですが、96-97年の特集を見ていると「日本のピッツァはこれでいいのか?」や「日本のパスタは本物なのか?!」など、ものすごい自問自答してるんです。バブルが弾けグルメブームが明けた後の自省期なのか? 日本のレストランを再検証していく特集が目立ちます。その中でも象徴的なのが1997年に二度特集されたフランソワ・シモンシリーズ。「日本のフレンチの実力が知りたい!」(1997年6/1号)と「フランソワ・シモン再び!」(1997年12/1号)です。

作り手と批評家が切磋琢磨してこそ食文化は進歩する。

 この企画ではフランスの料理評論家フランソワ・シモンが日本フレンチの覆面調査を敢行。BRUTUSが選んだ店にアポなしで訪ね、名を明かさず食事をし、その評価を記した原稿と共に掲載依頼を各レストランに送りつける……。店主からからしたら晴天の霹靂、ストロングスタイルな編集方針です。
 しかも誌面には「まるで冬の朝のポンコツ車のようにエンジンがかからない店」「善意に満ちた惨事」「魚のテリーヌ(冷やしすぎて何の味もしない)」……など無慈悲な酷評が数多く並びます(板挟みの編集者の心痛たるや)。こうして一部を切り取ると、とんだ暴言! 炎上不可避……! な感じですが、丁寧に文章を読み込んでいくと、彼がきわめて真剣に感受性の塊となって極東のフランス料理に挑み、その価値を自身の膨大な知識と照らし合わせながら真摯に言語化しようと試みた姿が立ち上がってきます。リスクを持って練り上げられた批評には、呼吸するように吐かれたディスやクレームとは一線を画す信念が宿っているように思えるのです。作り手と批評家が切磋琢磨してこそ食文化は進歩する、というような。

「自分はどうなんだ?」を問い掛ける雑誌。

 だからこそ、同じく信念を持って厨房に立ち続けてきたシェフも黙ってはいません。この特集で重要なのは、シェフの反論まで掲載されていること。なんなら間を取り持つ編集者の意見まで載せられて、関わる人全員本気の殴り合いが熱を持ったまま掲載され、誌面がリングと化しています(笑)。その真剣勝負に勝敗はありません。読後に残るのは「ではあなたはどう食べるのか?」という問いであり、権威的な評価の押し付けではないのです(そこがまたいい)。
 あれから20年強。平均値や統計が幅を利かせる社会では、自分が何かをいいと思うとき、同時に誰かの顔色を窺ってしまうような感覚も強くなりました。自分の舌がレビューサイトに乗っ取られるような、映画を見るとすぐSNSで”映画名 感想”と打ち込みたくなるような心許なさ。でもだからこそ、この特集が眩しいのです。周りがどうより自分はどうなんだ?その思いに信念と責任を持てるのか? おい、平野、どうなんだ! ……と、問い掛けられるような気持ちに、私はなりました。BRUTUS、すごいな。これからますます時代が混沌としていく中であっても、だからこそ力強く、時に社会に張り手を食らわすような雑誌を作り続けて欲しいです。

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ひらの・さきこ/フードエッセイスト。1991年福岡県生まれ。小学生から食日記をつけ続け、大学生時代に日常の食にまつわる発見と感動を綴ったブログが話題となり文筆活動をスタート。雑誌等で多数連載を持つほか、イベントの企画運営・商品開発など、食を中心とした活動は多岐にわたる。2020年7月に小社Hanakoでの連載をまとめた本「私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。」が刊行予定。instagram: @sakikohirano

Text/
Sakiko Hirano
Editt/
Yuriko Kobayashi

本記事は雑誌BRUTUS399号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は399号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.399
東京・関西7,000円以下のフレンチを判定する。(1997.12.01発行)

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