エンターテインメント

大竹伸朗を覚醒させたバリの旅。

自分史上最高ブルータス#7 森永博志(エディター/ライター)

No. 121(1985.10.15発行)
未来派のための最新アイランド・ガイド/’85/’86 スーパースキー図鑑
NO.121 1985年10/15号 特集「未来派のための最新アイランド・ガイド 踊る島 笑う島 目覚める島」

1980年代の初期BRUTUSで活躍したエディター/ライターの森永博志さんは、不良やアウトローの特集や、開放政策前の中国に乗り込み取材を敢行するなど、幾多の名物企画を手がけてきました。自身が関わった最高の一冊を尋ねると、現代アーティスト大竹伸朗さんとともに作った号を挙げました。

「ゴミがアートになるわけがない!」って事情聴取されちゃったんだ

 当時、大竹伸朗君は若手芸術家として注目され始めていたんだけど、とある有名ギャラリーと行き違いがあって、創作活動ができなくなっていたんです。すると、大竹君と懇意にしている(エディターの)都築響一から僕に連絡がきた。「今度のBRUTUSの海外取材に大竹君を一緒に連れていってくれないか」と。「大竹君に現地で作品をつくらせて、それを表紙を含めた巻頭の目玉特集にして日本の美術界にリベンジしたい。彼を応援したいんだ」と。そのとき僕はインドネシアのバリ島に興味があったから、バリを含めたいろんな島を取材して「アイランド特集」で一冊できないかなと考えていて。「じゃあ、大竹君、僕と一緒にバリに行こうか」と。大竹君も「バリで作品をつくりたいです」と。
 取材班は、僕と大竹君とフォトグラファーの三浦憲治。せっかくだから、バリ島だけじゃなく、ジャワ島も取材しようとなり、バリに到着すると僕と三浦はすぐにジャワへ飛んで、大竹君はバリのウブドに残って創作に励むことになった。で、1週間ぐらいだったかな、バリに戻ってきたら、大竹君が真っ青な顔をしてホテルにいたわけ。「大変なことになった!」と。「警察に逮捕されて事情聴取されました! スパイに間違われました!」って(笑)。大竹君はコラージュ作品をつくるために、インドネシアの印刷物をホテルにたくさん取り寄せていたんです。本や雑誌、新聞なんかをね。さらに、昼間は海辺をうろうろしては、マルボロのパッケージだのお菓子の包み紙だの草履だの、落ちてるゴミを集めてる。「インドネシアの情報を収集しているお前はスパイだろう!」と(笑)。大竹君は「僕はアーティストです」と何度も訴えたけど、バリの人にとっての芸術って、バティックアートからもわかるように非常に繊細で美しいものなんです。拾ったゴミがアートになるなんて考えられない。いくら説明してもわかってくれなかった。ギリギリ留置は免れたけれど、ホテルの部屋に待機せよと。一歩も外に出るなと。で、僕らは「これはまずい」と。もしかすると出国するときに全員捕まってしまうかもしれないぞと。映画『ミッドナイト・エキスプレス』(1978年公開)の気分でしたね。まあ、なんとか大丈夫でしたけれど(笑)。 

売れなかったけれど大好きな号。こんなデタラメができたんだから

 結果、大竹君は膨大な作品群をつくりあげ、BRUTUSも彼の作品を大特集することができたし、表紙も飾った。するとそれが後日、アメリカの出版社の目に留まってね。ウィリアム・S・バロウズの小説『QUEER』(邦題『おかま』)の単行本の表紙にもなったんです。響一が画策した「リベンジ」を果たすことができたわけ。ただ、読者の反応は全然なかったね。記録的に売れなかった。BRUTUS史上いちばん売れなかった号なんじゃないかな(笑)。だってバリに関する旅ガイドがなんにも入ってないんだもの。ホテルの情報もなければ、観光情報なんて一切なし。ただただ大竹君のサイケデリックなコラージュアートが載っているという(笑)。彼にとっても忘れがたい経験になったようで、今でも思い出すことがあると言ってましたね。ある意味、芸術家として覚醒した旅だったと思う。当時、大竹君は30歳、僕は35歳。いちばん好き、この号は。こんなデタラメができたんだから。

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もりなが・ひろし/1950年生まれ。編集者、作家。小誌のほかに『ポパイ』『月刊プレイボーイ』『月刊小説王』などあらゆる雑誌の編集を手がける。85年には原宿の伝説のショップ〈クリームソーダ〉の山崎眞行のサクセスストーリーを描いた小説『原宿ゴールドラッシュ』で作家デビュー、後に映画化。著書に『ドロップアウトのえらいひと』など。Twitter @DIAMOND_ROUGH

TEXT/
Karashima Izumi

本記事は雑誌BRUTUS121号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は121号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.121
未来派のための最新アイランド・ガイド/’85/’86 スーパースキー図鑑(1985.10.15発行)

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