2004年、《iPod mini》を大ヒットさせ、アップルを復活させた立役者、それが前刀禎明さんだ。当時、アップル米国本社のマーケティング担当副社長 兼 日本法人代表。現在は07年に立ち上げた自身の会社、リアルディアで、創造的知性を磨いて自己改革を促すための事業を展開する。
「その手段の一つとして、プレイ、クリエイト、シェアを基本コンセプトにしたスマホアプリを開発しました。まずはゲームに挑戦し、頭を悩ませながら解く中で、いろいろな発見をします。次に、今度は自分でゲームを作ってみましょう、と。すると仕組みがわかるので、さらに気づきがある。それをシェアして人にやってもらうと、自分では想定しなかったクリアの仕方があって、驚くんです。こうした経験を重ねるうちに、人はだんだんと固定観念から解放され、五感を研ぎ澄ませられるようになっていくと僕は考えています」
アメリカの企業、中でもエンターテインメント業界やIT業界での勤務が長かった前刀さんは、現在に至るまで、仕事の現場ではカジュアルスマートを基本とする装いが中心だ。だが、コンサルティング会社での交渉の場面やビジネス上の要人との会談の際に身に着けるのは、やはりスーツだった。
「世界のトップは、スーツ姿もきれいです。そうした人たちとの交流を経て、僕が今スーツ選びで最も大切にしているのは、体に合ったサイズを選ぶこと。体にフィットしているとカチッとはまっている感じがして心地いいし、気持ちを引き締めてくれる効果もある」
スーツスタイルの完成は、 中身の充実があってこそ。
出かける前には必ず鏡で、全身のバランスをチェックするそう。
「自分を俯瞰し、客観視する機会って少ないですが、実は非常に大切。それは経営判断の場でも装いでも、同じだと僕は思います。自分がどんなふうにスーツを着ているのか、例えば写真を撮って点検する。現実を直視することを繰り返すうち、だんだんスーツスタイルの肝がわかってくるんです」
仕事におけるプレゼンテーションでは、装いも重要なファクターになると前刀さんは言う。スーツスタイルは自己表現であり、そこに生き方や考えが表れるから。
「僕はウォルト・ディズニーの言葉から、自分を信じることの大切さを学びました。またスティーブ・ジョブズからは、現状に甘んじない精神、自分の心の声や直感に従って生きることの意味を教わった。僕が自分を変えられたように、現在僕が手がける事業を通じて、多くの人にセルフイノベーションして輝いてもらいたい。本当に素敵なスーツスタイルは表面だけでなく中身の充実があってこそ、完成するものだと信じています」

〈J.M.WESTON〉や〈ジョン ロブ〉
のシューズを数多く愛用する。この日の足元も10年以上大切に履き続けているという、茶系ウエストン。

- photo/Koh Akazawa text/Taichi Fujino, Akiko Inamo edit/Naoko Sasaki/
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