ファッション

社長指名を受けた直後、 年長の役員から、 “靴を買い替えなさい” と言われました(笑)┃福田 譲 SAPジャパン 代表取締役社長

装いが道を拓く。経営者に教わる、スーツスタイル。

BRUTUS特別編集(2019.09.02発行)
BUSINESS BRUTUS

「私がビジネスで心がけているのは、装いを含めて、相手が期待する“自分”を作ることです」
 そう語るのは、ドイツに本社を置く企業向けソフトウェア大手、SAPの日本法人、SAPジャパン代表取締役社長の福田譲さんだ。入社以来、営業畑を歩んできたということもあり、ビジネスの場では相手に信頼感を与えるよう、ダークスーツに白シャツを合わせるのが基本。一方、デザイン思考や日本企業のイノベーションを支援するセッションなどには、柔軟な空気を醸し出すため、ジーンズとスニーカーで参加する。
「大袈裟に言えば、ある意味、映画俳優のようなもの。ビジネスの現場にも脚本があるわけです。成果を出すために、自分にはどんな役柄が求められているのか。脚本を理解し、それに合った格好と振る舞いを大切にしています」
 福田さんは新卒社員として入社、26歳で部長に抜擢され、31歳でバイスプレジデントに。2014年7月、当時39歳という異例の若さで社長に就任。生え抜きという点も、外資系企業のトップとしては非常に珍しい。同社の18年の総売上高は、社長就任時の14年と比較して、50%も成長。ここ数年は売り上げ3兆円を誇るSAPグローバルの中でも優等生的存在として、注目を集めるようになった。
 就任当初から、「SAPが世界で培った知見をもって、日本の進化に貢献すること」を目標に掲げてきた。一貫して取り組んできたテーマは、「グローバリゼーション」「トランスフォーメーション」
「イノベーション」の3つだ。
「言葉だけでなくメンタリティを含めたグローバル化や、リスクを恐れないチャレンジ精神、痛みを伴ってでも将来のために決断する経営姿勢などは、今やどの会社にも必要です。ただし実は、これらは日本企業が苦手とするところでもある。逆に弊社は、これらを得意としてきました。ITの世界で培ったノウハウを生かし、日本企業が苦手を克服するための仕掛けをフレームワーク化して提供する。これが、我々が見つけた次のフロンティアです」
 今年2月、東京・大手町に同社が三菱地所とともに作り出した拠点〈インスパイアードラボ〉もその一つ。入居するのは30社ほどの大企業の新規事業部門やスタートアップ。業種や企業の垣根を越えて連携し、それぞれの強みを発揮して新しいアイデアやサービス、ビジネスモデルを生み出していく。
「あらゆる業種が、デジタル化の進展で従来の壁を超えて競争する昨今。国内の同業他社だけを見て経営するという従来のスタイルは、今後、死滅すると思います」

時計とカフリンクスが、 オンのスイッチ。

 社長就任前と現在とで、ビジネスシーンでの福田さんの装いに基本的に大きな変化はないというが、一つ断行したことがある。
「社長の指名を受けた直後、年長の女性役員に呼び出され、“靴を全部買い替えなさい”と言われたんです。靴にまで気を使わなければいけないものなのか、と最初は驚きましたが、自分で少しずつ勉強してみると、靴とは奥が深いものだと知って、面白くなりました。吟味を重ねた結果、日本らしい真摯なもの作りに共感できる、山形に拠点を持つ老舗メーカー〈宮城興業〉の靴を買い揃えたんです」
 スーツとシャツは基本的に、イタリアから直輸入したエルメネジルド ゼニアの生地を扱う、神楽坂の小さなテーラー〈FILO〉でオーダー。ファッションに対する思い入れの強さを窺わせるが、「いえ、そうではなく、見ての通り大柄なので、既製服では合うものがないんですよ」と笑う。
「好きなスタイルは、ブリティッシュ系のシングルブレステッドスーツです。既製のジャケットも何着か持っていますが、どうしても“羽織っている”という感じがある。でも、自分の体にぴったりと合ったオーダースーツだと、まとっている感覚がなく、着ていてまったく疲れないんです」
 ビジネスの最前線に出るには、仕事モードに気持ちを切り替えるスイッチも不可欠。福田さんにとって、その一つが時計だ。日本が誇るブランド〈グランドセイコー〉
を腕に巻くとオンに変わるそう。
日本の確かなもの作りを背景に、世界で勝負しようとする姿勢が素敵だなと思います。海外に行くと現地法人の同僚から、“どこの時計?”と聞かれることが多いんですよ。そのたびに“いいでしょ? これは岩手の雫石で作られていてね”と、もの作りのストーリーを伝える。グランドセイコーの営業マンになっていますね(笑)」
 福田さんにとって、もう一つの大切なアイテムがカフリンクス。
「特定のブランドではなく、気に入ったデザインのものを直感的に選ぶことが多いです。白蝶貝のカフリンクスが好きなのは、白いシャツに合いながらも着けていて気持ちがシャキッとするから」

変革を推し進めながらも、 日本の良さを忘れない。

カフリンクスにこだわるのは、福田さんのビジネスパーソンとしての生き方を決めた、メンターとも呼べる人物の影響だそう。入社2年目、大きな契約をまとめた際の相手企業の役員だ。仕事ぶりだけでなく教養や人間性も素晴らしく、常に身だしなみの隅々にまで意識が行き届いている人だった。
「その方があと2年で定年を迎えるという時、5年間かけるプロジェクトに邁進していらして。つまり、自分がいなくなった後に結果の出る仕事に一生懸命になっていたんです。理由を伺うと、“仕事も人生も欧米はマラソン型の発想だけど、日本は駅伝なんだ。たすきをつなぎ、チームでやることが大切なんだよ”と。心を揺さぶられ、その方への尊敬の念から、彼が強いこだわりを持っていたカフリンクスをするようになりました」
 グローバル化と変革が進む現代にあっても、日本の美点は決して手放さない。経営理念にも装いにも、そのポリシーが表れている。

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自分を奮い立たせるアイテムの一つが、〈グランドセイコー〉の独自機構、スプリングドライブ。時計の個性に合わせ、シーンで使い分ける。

20代からスーツをオーダーし、最近は東京神楽坂の〈FILO〉で仕立てることが多い。同じくオーダーしたシャツの袖口にはイニシャルが。

〈ニナ リッチ〉や〈タテオシアン〉などのほか、基本的にブランドにこだわらずデザイン重視で購入。白いシャツに合う白蝶貝がお気に入り。

山形の老舗メーカー〈宮城興業〉の靴を愛用する。この日着用していたのはシンプルなプレーントウ。細身のシルエットがエレガントな印象。

photo/Koh Akazawa text/Taichi Fujino, Akiko Inamo edit/Naoko Sasaki/

本記事は雑誌BRUTUS特別編集の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容はBRUTUS特別編集発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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