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NEW WORK STYLE これからの時代、働くということ。松浦弥太郎

働くことや人生のヒントを的確に誠実に言語化している松浦弥太郎さん。40代で『暮しの手帖』編集長からITベンチャーのイチ平社員に転職するなど、自身も働き方を模索し続けている。「これからは、会社と個人が深くリスペクトし合う時代」という松浦さんが考える、これからの“やさしい”仕事のあり方とは。

art direction: Yuta Ichinose / photo: Keta Tamamura / text: Masae Wako

働く人たちの新しい価値観に敏感で、社会に受け継がれてきた普遍的な価値にも敬意を払う。そんな松浦さんに聞いてみた。働くってどういうことですか?

「簡単です。働くとは、困っている人を助けること」

これしかない。絶対そう思うんです、と断言する。

「仕事があるということは、必ずその先に、間接的かもしれないけれど生身の困ってる人がいるということ。それは会社にとってのカスタマーかもしれないし、一緒に働いてる人かもしれない。誰かの困り事を想像し、解決するために仕事があるんです」

生身の人間はすぐ傷ついてしまうし、誰もが弱くて脆くて疲れている。仕事は辛いことが多く、もはやこれまでということもたくさんある。それでも頑張れるのは、その先にいるはずの困っている誰かを助けるという動機があるから。松浦さんはそう信じている。

すべて「自分ごと」。仕事を面白くするきほんです。

「今、世の中の人が何を必要としているのか、何に不安を抱き、何に怒っているのか、世界の人が何を悲しんでいるのか。これからは、人々の日々の感情に敏感でいられる人が、世の中に求められていくだろうし、そういう意識を持って働くことが、やさしい社会を作るのだと思います」

向き合いたいのは情報ではなくて人々の感情。頭を使うと同時に、心でもきちんと世の中をキャッチしたい。

「何かを発信する、あるいは、ものやサービスを作る仕事をしているのならばなおさら。目まぐるしく変わる世の中の感情を、毎朝天気予報を確認するように、当たり前のこととして常に観察し続けることが大事です」

なぜならその観察というまなざしは、自分が孤立しないだけでなく、人を孤立させないことにもつながるから。

「自立は大切だけど、孤立は寂しい。社会と接点を持たず自分の中だけで完結する仕事は、自分勝手な活動に収まってしまいます。仕事の目的の一つは社会貢献。これからの会社と個人は、与える/与えられるの境界を越えて、互いをリスペクトしながら社会に寄与していく関係を築くべきだと思うんです」

例えば社会に取り残されそうな人が存在することに、個人として敏感でいたいし、それを企業としてきちんと手を差し伸べる術に昇華できたら理想的、と松浦さん。

「企業にも人間性が求められていくということですね。個人が働きづらい思いをしている時、会社が知らんぷりするのは、これからの組織としてあり得ない。サポートの方法はいろいろでしょう。保障や労働条件で支援する、能力を伸ばしやすい環境を整える、自立を促す。と同時に個人も、10年後の会社を良くする課題解決や仕事の種を考えるというような意識を持てればベスト」

そういった取り組みから組織としてのやさしさが生まれ、世の中に応援され得る企業に成長する。

「もう一つ、個人に求められてくるのは人生における自己決定力。自分の頭で考えて自分で決める力です。システムやAIやルールやセオリーが答えを決めてくれることが多い時代だからこそ、いやいや、もっと自己決定していいんだよ、するべきなんだよと僕は言いたい」

世の中にある答えみたいなものは、実は問いであり投げかけであり、いわば答え一歩前。自分で答えを求めることこそが人生だけでなく、仕事における醍醐味のはず。

「世の中に起きていることで自分に関係ないことはないし、仕事は全部“自分ごと”です。自分の家で何かが壊れていたら絶対になんとかするでしょう? 修理するにしても、よりカッコよく使いやすく直すと思う。自分ごととなればどんなミスも自分の責任だし逃げられない。深くコミットすれば必ず結果に表れる。仕事もそういうふうにやっていけば絶対に面白くなると思うんです」

松浦弥太郎 アトラエ

人は何歳からでもルーキーになれる。プライドを捨てればいいだけです。

個人の能力を生かし可能性を広げるため、ひいては企業や社会に貢献するためにも、これからの働き方に転職やジョブチェンジというチャレンジは欠かせないだろう。

「とにかくプライドは捨てることです。誇りは必要だけど、プライドは何の役にも立ちません。プライドを捨てれば自分の殻を破れる。殻って誰かが破ってくれることはまずなくて、自分でしか破れないんです」

松浦さんは41歳からの9年間、『暮しの手帖』という「とてもアナログなシステムの雑誌」を作ってきた。その間にインターネットは飛躍的に発達。むくむくと湧き上がってきたネット世界への羨望を抑えられず、2015年、プログラミングシステムに長けたコミュニティサイト「クックパッド」へ転職する。松浦さんは当時の社長より年上で著名人。特別扱いの誘いもあったけれど、潔く一般中途枠で入社した。4月1日に新入社員と共に朝礼に並び、与えられた仕事机は入口近くの末席だ。

「『アナログからデジタルへ移るなんて!』ってよく言われました。ITの知識はないし、用語にも不慣れだから20代の子たちに教わって。でも、最初の1年で僕の中身が全部入れ替わったくらいリセットできたんです。それまで培ってきたキャリアの使いどころは、これから先、いくらでもある。そう思って手ぶらで飛び込めたことが、自分の人生を大きく変えました」

人生100年といわれる時代。何歳からだって自分のコンセプトを変えることはできるし、その喜びや学びに気づいた人生の方が面白いに決まってる。

「先の見えない世の中で、誰もが不安を感じている。でも不安とは知らないこと。知ればいいんです。僕は『クックパッド』入社の2週間前、怖くて怖くてノイローゼ気味になってしまった。でもそれって何も知らないからなんだとふと気づき、ITの勉強会を調べ、プログラミング用語を呪文のように唱えながら5、6日通ったら、不安がスッとなくなった。知らないことは知ればいいだけ。知って学んで新しい世界に触れることの興奮に、もはや一からスタートし、どう攻略するかというゲーム感覚さえ覚えました」

人はいつでもルーキーになれる、と松浦さんは言う。できないことやわからないことは「教えてください」と口に出す。そうすれば周りはちゃんと助けてくれる。

「素直に困って人を頼ればいいし、あなたも人を助ければいい。困るところに仕事が生まれるんだから」

株式会社アトラエ