エンターテインメント

『ノマドランド』から学ぶ、映画作りのノウハウ。

山田兼司×伊賀大介×岩崎太整 MOVIE TALK ROOM Vol.01

BRUTUS.jpオリジナル記事
リーマンショックの影響で職を失い、家も手放し車上生活をする60代女性ファーンが主人公のロードムービー。季節労働者、同じく車上生活をする仲間たちとの出会いを、北アメリカの壮大な景色と共に描く。また、俳優のフランシス・マクドーマンド、デビッド・ストラザーンの2名以外は、一般のノマド生活をする人を役者に抜擢している。本作はゴールデングローブ賞“2冠”を達成。アカデミー賞の「作品賞」「撮影賞」「主演女優賞」「編集賞」「監督賞」「脚色賞」の6部門でノミネート。『ノマドランド』 TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

映画・ドラマプロデューサーの山田兼司さん、スタイリストの伊賀大介さん、音楽家の岩崎太整さん。それぞれの分野で映画業界の第一線を走る3名はコロナ以降、定期的にグループLINE上で映画談義を繰り広げている。BRUTUS.jpでは、彼らの映画トークルームの内容を公開していく。初回のテーマは、監督・クロエ・ジャオ、主演フランシス・マクドーマンドのアカデミー賞最有力作品『ノマドランド』。映画館で見たばかりの3人によるトークリレーがスタート!

鼎談は21時から翌日まで行われた......。

優れたディレクション力。

伊賀
まずは、『ノマドランド』を観たそれぞれの感想を話しますか。俺は映画としても凄いけど、現代批評としてもヤられました。
山田
最高でしたね、僕は映画館で2回観ました。映像が素晴らしくて、これは劇場で観た方が良い作品だなと。マジックアワー炸裂の自然美が作品にとって不可欠な魅力になってた。
伊賀
Amazonの工場ロケにもビビった(笑)。
岩崎
あそこまでGAFAを批評的に映す映画を初めて観た気がする。
伊賀
写真家の(アンドレアス・)グルスキーみたいな構図で。撮影監督のジョシュア・ジェームス・リチャーズは、クロエジャオの前作『ザ・ライダー』も撮っていましたね。
山田
そうそう、クロエ・ジャオのパートナーみたいですね。あと、原作ノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(ジェシカ・ブルーダー/著、春秋社刊)も読んだんですけど……。
伊賀
原作に主人公はいるんすか??
山田
リンダとスワンキーは原作ノンフィクションの取材対象者なんです。原作はリンダの人生を追っていくのが主軸になっていて。
伊賀
そうなんだ、読みます! あと、主演の(フランシス・)マクドーマンドが製作にも入ってるよね。あの身体を張ったシーンでピンと来た(笑)。
山田
そもそも、マクドーマンドが原作権おさえていて。だから、マクドーマンドが、『ザ・ライダー』を観て、この『ノマドランド』の監督はクロエ・ジャオしかいない!と抜擢したらしい。
岩崎
そこの人選もマクドーマンドなんだ、流石だわ。
伊賀
プランB (ブラッド・ピット率いる映画製作会社プランBエンターテインメント)とか、最近のマーゴット・ロビーなんかも含めてやっぱ俳優の鼻の利き方はすごいっすよねー。あっ、岩崎くん音楽はどうでした??
岩崎
素晴らしかった! メインのルドヴィコ・エイナウディは、もちろん良いんだけど、オーラヴル・アルナルズの曲が凄く良くて。彼はアイスランド出身のミュージシャンなんすよね。
伊賀
アイスランドは『メッセージ』で音楽を担当したヨハン・ヨハンソンしかり、良いアーティストが多いっすね。
岩崎
そうですね、ヨハンソンしかり、ヒドゥル(・グドナドッティル)、ヨンシー、枚挙に遑がないけど、何故あの土地ではこういうサウンドが育つのかねー。
伊賀
それどっかに原稿書いてよ!
岩崎
まずは取材のために、レイキャビクに行かなきゃ(笑)。本当に小さい街で、歩くとすぐ終わっちゃうらしいんだけど、その周辺で育つ人たちには自然とあの「音楽的距離感」が身についてる。

25人のスタッフで制作。

伊賀
あと、自分フィールドの話もすると、スタイリングを含めて、それぞれの人物の実在感もすごい。自前メインのスタイリングではあると思うけど。トレーラー内の美術……特にあの皿とか、身の回りのモノが本当に完璧だった。
山田
自前の服やプロップがメインだとしても、ピックアップするセンスがあるよね。 あの皿の使い方、作劇的には完璧だった。
伊賀
あのエピソードは原作にあります??
山田
まったくないです。そもそも、マクドーマンドが演じるファーンの存在は完全に創作。あと、スワンキーの背景設定とかかなりフィクションにしているんですよ。あんな重病じゃない(笑)。
岩崎
その辺は作劇の手を入れてるのか。でも、社会保険の話とか含めてリアルでしたね。
山田
そうだね。あと、クロエ・ジャオの前作『ザ・ライダー』の制作費を聞いてびっくりしたんですけど、なんと……880万円。しかも自腹で作ったらしく。
岩崎
へえーー! そんなに低予算なんだ。
山田
主人公が実在のライダー、演技の素人なんですけど、顔と表情がいい味出してます。アプローチは『ノマドランド』とも基本同じだから、そんなに製作費かかってないのでは?
伊賀
スタッフ少なそうっすもんね。
山田
あっ……マクドーマンドのインタビューに恐るべき事実が(笑)。「フランシス:私たちのチームは、たった25人だけでした。私は61歳で最年長で、最年少はおそらく24歳だったと思います。私たちは7つの州を5か月かけて、一緒にをしました。それは本当にタイトな仕事でしたね。必要な時にはいつも、全員が各部門の境界線を越えて作業を完了させました。非常に迅速かつ即興的に移動し、ノマドのコミュニティと同じように暮らしました」(『ノマドランド』公式パンフレットより引用)と。
岩崎
「全員が各部門の境界線を越えて作業を完了させました。」、これメチャクチャ映画作りで大事なことだね。
山田
こういうDIYなスタイルを、やりがい搾取じゃない形でクリエイティブに成立させることが重要ですよね。『ノマドランド』はあれだけのマジックアワーが撮れているのは、「最高の気象条件にならないと撮影しない」とか、撮影のリスケが許されるスケジュールでやってたはずで。
伊賀
ロジャー・ディーキンスかよ! と(笑)。でも黒澤明も天気待ちが代名詞だったし、そもそも昔の映画は皆そうやってたもんね。

アメリカ社会の分断。

伊賀
いま、アカデミー賞のノミネートをチェックしたら、『ノマドランド』は脚本賞は入ってないのね。
岩崎
一応原作あるから、脚色になるんじゃないのかね。
伊賀
気がはやいけど、『ノマドランド』は後年どういう評価の映画になるかな??  俺的には、ものすごくいまの時代を掴んだドキュメンタリックな傑作だと思うんですが、これぞ物語!!! という点では劇映画としては印象が薄いから10年、20年経つとどうなんだろうか?というのも気になる点。
岩崎
原作のジェシカ・ブルーダーのインタビューを読んだんだけど、やっぱりこのパンデミックとは切り離せない作品にはなりそうだよね。奇しくも3月末日までは住居の立ち退きは「モラトリアム措置」(米疾病予防管理センターがコロナ対策の名目で、家賃滞納者の強制退去を禁止した発令)で回避出来るらしいんだけど、まさに今日(LINEをやりとりした4/1)から、彼らはどういう生活を送ることになるのか。
山田
今の世界的な経済状況ともリンクするし、現代アメリカを表象するタイムリーな映画としては非常に素晴らしい作品だったなと。あとは、フィクションとドキュメンタリー手法を融合しつつ、オーソドックスな物語文法を使っているのが斬新でした。今後、影響を受けて模倣する人たちが増えていくとも思いました。
伊賀
そんなクロエ・ジャオの次作がMCUの『エターナルズ』という(しかも出演にマ・ドンソク!!!!)世界中の映画ファンが期待する展開に!!!
山田
ほんとに楽しみだよ。参考にした作品が『レヴェナント 蘇えりし者』だそうで(笑)。
伊賀
『ザ・ライダー』観てマクドーマンドは『ノマドランド』をオファーして、ケヴィン・ファイギは『エターナルズ』をオファーしたって事すよね。
山田
エターナルズがどうなるかで、後年の『ノマドランド』評が影響受けそうな気もします。そういう意味では、次は『エターナルズ』を楽しみに待つということでしょうか(笑)。
伊賀
あ! ちょっと違うんだけど『わたしに会うまでの1600キロ』と絡めて話すのも忘れてた。やっぱりアメリカ横断のロマンは、アメリカ人ならではだなと思いました。ヨーロッパ欧州一周になっちゃうから。
岩崎
横断が似合うのはやっぱり北米だもんね。
伊賀
大自然が絵になるからね。結局、そもそもアメリカ人は全員移民であり、ノマドである、という話にもなりますよね。
山田
そこがアカデミー賞最有力の所以かと。俺はとる気がしますね。
岩崎
次はアカデミーの発表後でもLINEしようか。
伊賀
トランプ時代の分断を超えれるのか。
山田
『ミナリ』も俺は見てるんで、その話もしたいな。
伊賀
そーっすね。とりあえず『ミナリ』を観ます! あと『ジャンクヘッド』もめちゃ気になってる。
山田
それはまた次回!
エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

山田兼司

やまだ・けんじ/映画・ドラマプロデューサー(東宝に在籍)。代表作に『dele』『BORDER』『ハケン占い師アタル』『岳』など。

伊賀大介

いが・だいすけ/雑誌、広告、映画、音楽家のスタイリストとして活躍。映画好きとしても有名だが、本、プロ野球、プロレスなど守備範囲は広い。

岩崎太整

いわさき・たいせい/映画、ドラマ、アニメ、等で活躍する作曲家。代表作にドラマ/映画モテキ』、実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル / GHOST IN THE SHELL』など。

BRUTUS.jpオリジナル記事

関連記事