Talk1 永山絢斗×石川善樹「ウェルビーイングの鍵は料理にあった!?」

世の中が変わるときは、料理をしよう。 presented by AJINOMOTO PARK

BRUTUS.jpオリジナル記事
「料理をしていると、日々の生活に張り合いが出てくるんですよ」と、石川さんが言えば、永山さんも「いいことが、末広がりですよ」と。男性ふたりの料理談義は尽きない。

Speaker/石川善樹(左) いしかわ・よしき/ 1981年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。予防医学研究者、博士として、「人が良く生きる=ウェルビーイングとは、何か」をテーマに研究を続け、著書も多数。

Interviewer/永山絢斗(右) ながやま・けんと/1989年生まれ。2010年、初主演を務めた映画『ソフトボーイ』で日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。出演作にドラマ『重版出来!』、映画『海辺の生と死』など。現在ドラマ『俺の家の話』に出演中。

近年、日本でも注目が集まっている「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉、概念がある。16世紀のイタリア語「ベネッセレ」が語源で、「よく在る」という意味をあらわす。これを高めるにはいろいろなアプローチがあるが、その中の一つとして、「食」、中でも「料理」への意識がより高まっている。それにはコロナ禍以降のステイホームによる自炊の増加、働き方や生き方を見直す機運の高まりなどが背景にある。世の中が変わりつつある今、私たちの心と体を豊かにする「料理」の可能性について、永山絢斗さんが、研究者や作詞家など三人の方と対談を行った。

自粛期間中に本格的に料理を始めて1年。前向きな気持ちになってきているのを実感しているという俳優の永山絢斗さん。「料理を作り始めて、体のことをより考えるようになり、以前よりも運動するようになりました。シャワーだけだったのが、最近は湯ぶねにも浸かるようになりました。運動して、体がすっきりすると、台本を読む集中力も違う気がしていて。料理を始めてから、いろいろなことが少しずつ変わってきて、生活全体がいい方に流れているように感じます」と話す。自身に起こっている、こうしたいい循環は、なぜ起こるのか。実際、体や脳、心にどう作用しているのか。料理をすると、さらにどんな効用があるのか。自身が感じている変化を、その理由を、もっと深く知りたい。対談の第一回目のお相手は、ウェルビーイングや「より良く生きる」といったテーマをさまざまな角度から研究している、予防医学研究者の石川善樹さんに話を聞いた。

ミシュランの星付きフレンチのシェフが主宰する料理教室にも通い、料理の腕を磨いている石川さん。

コロナ禍でも幸福度が上がったのは、実は、料理を始めた人だった。

新型コロナウイルスが発生して、人々の生活は大きく変わった。仕事でもプライベートでも外出する機会がめっきり減って、多くの時間を家で過ごすようになった。ところが、それで幸福度が下がったかというと、必ずしもそうではない人たちもいる。

BRUTUS(以下:B) 
コロナ禍で、人々の意識が変わったということですか?

石川善樹
家にいる時間が長くなって、皆が、時間の過ごし方を考え直したということだと思います。自分はどう過ごしたいのか、どうしたら心地よくいられるのか、それには何を、どう変えていけばいいのか、と。そこで、ウェルビーイングが良好な人は、どういう人だろうと、調査をしてみたら、それが“料理をするようになった人”だったんですよ。しかも、お昼ご飯!
永山絢斗
永山絢斗 お昼ご飯って、ふだんはなかなか作らないですものね。晩ご飯ならわかりますけど。自分も料理に目覚めたのは、(最初の)自粛期間中でした。それまでも、料理をしていなかったわけではないですけど、時間があるんだから、時間をかけてご飯を作ろうと思って、積極的に自炊をするようになりました。
石川
そうなんですよ。特に男性が、より料理をするようになったんです。実は、世界中どこを探しても、女性より男性の方が料理をする頻度が高い国って、一つもない。ただ、その男女格差にはかなりバラつきがあって、格差が小さいほど、つまり、男性が料理をする国ほど、幸福度が高いというデータもあるんです。例えば、北欧の国々がそうですが、理由の一つは、男性が料理をするようになったことで、女性が自分のために使える時間が増えたためです。
永山
それは、男性が、女性から時間を奪っていたってことですか?(笑)
石川
もちろん一概には言えませんが、男性は自分の時間を優先して、家族との時間を後回しにする傾向があるのでしょうか。そして、男性は男性で、料理する楽しさに気づいた。料理って、最初から最後まで一人で作業できるじゃないですか。実は、そういう仕事って、珍しい。ほとんどの仕事は部分しか任されないから、どうもやった気がしない。その点、料理は“ひと仕事したな”っていう爽快感が得られるんですね。
永山
たしかに、始めるまでは億劫なんですけど、やり始めると、楽しくなってきますね。まぁ、食べてお腹いっぱいになると、洗い物だけが残って、また、どうでもよくなっちゃったりしますけど(笑)。でも、自分で作った料理より、人に作ってもらったものの方が感動するのは、どうしてなんですかね? 知人が家に来た時に料理を出すと、めちゃめちゃいい顔して、“旨い!”“旨い!”って言ってくれるんですけれど、自分にはそこまでの感動はなくて……。“こんなもんかな”って、味の予想ができちゃうからなのかもしれないですけど。
石川
おっしゃる通り、予想通りってことだと思います。思った通りの味だよなっていう。人って、何に感動するかというと、ギャップなんです。永山さんって、忙しそうだから、料理をしているイメージがあまりないじゃないですか。それなのに、“こんな旨い料理が作れるんだ”っていうギャップを感じるから、感動する。料理は作る人だけじゃなく、それを食べた人も幸福感を得られるという、波及効果もあるんですよ。

米IT企業で料理プログラムが大人気。自炊をすると、自然と健康になる

料理をすると、幸福度が上がるのは、なぜなのか。心や体にどんな効用があるのか。石川さんいわく、実は、コロナ禍以前から、アメリカのIT企業などでは、社員に料理を推奨していたという。例えば、米Google社では、社内に本格的なキッチンを設け、食材を調達するところから、料理を作って、家族と一緒に食べるところまでを組み込んだ料理プログラムを用意。社員にとても好評なのだそうだ。


米Google社をはじめ、アメリカの企業が料理のプログラムを取り入れ始めたのは、なぜですか?

石川
Google社は、社員に世界一健康であってほしいと願っているんです。ところが、いくらヘルシーなお菓子を手に取りやすい場所に置いても、なかなか手に取らない。その奥にあるジャンキーなものばかりに手を伸ばしてしまうという問題があったんです。“これは、ヘルシーな食べ物を提供するだけではダメだ。では料理をつくるところから始めたらどうだろうか”ということになって。料理プログラムを始めてみたところ、あっという間に大人気になって、実際に健康診断の結果も良くなったんです。自分で料理をするようになると、自ずと材料や栄養を意識するようになって、食べるものもコントロールできるようになるので、自然と健康になるんですよ。
永山
自分も、料理を作るようになって、使う砂糖や塩の量を調節したり……。詳しい栄養素まではわかりませんけど、“こういう野菜はとった方がいいんだろうな”ぐらいの感じで、食材を選んだりするようになりました。そもそも、それまで家で野菜なんてほとんど食べてこなかったので、それだけでもいいことだなって思います。自分でゴマをすって、ドレッシングまで作っちゃったりして。


実際に料理をするようになって、体の調子が良くなったという実感はありますか?

永山
実感するところまではいっていないんですけど、体のことに気を使って食べている自分が好ましいっていうか。それに、あれこれ買い物をしてしまって、重い荷物が腕に食い込んでいたりすると、“あ~、米とか、軽く持ちたいな”と思って、帰って、筋トレし始めたり……。

石川
ハハハ。料理って、実はそういう時間も大事なんです。買い物して、調理して、片づけしてって、すごく時間がかかるじゃないですか。それを外食やテイクアウトで済ませてしまうと、すぐに終わってしまうから、時間が余る。じゃあ、その時間に何をしているかというと、ほとんどの人が、携帯を見てるか、ゲームしてるか、例えば、アメリカの場合だと、増えたのが、テレビを観る時間だったんですよ。
永山
あ、たしかに。
石川
しかも、その間、絶対、飲んだり、食べたりしてしまう。平安時代の貴族なんかは、暇な時間の使い方がうまかったんですよ、月を見て、ほろほろ泣いたり、蹴鞠を蹴ったりね。
永山
歌詠んだり……(笑)。
石川
でも、僕らは、そういう時間の使い方がへたで、暇な時間を有効に使える人は少ない。テレビだって、ほんとうに観たくて観ているのかといえば、そうではない。ほかにやることがないから、観ているだけなんです。それで、ついつい、飲んだり食べたりしてしまうから、カロリー過多になってしまう。実は、僕らのいまの食生活って、徳川家康よりも贅沢なんですよ。栄養価も高いし、旨いし、文句のつけようがない。500円の牛丼で、“家康超え”ですから、すごい時代だなぁと思うんですけど。でも、これからは、ただ出されたものを食べるのではなく、健康のことを考えて自分で作ってみることが、さらに求められるんじゃないかと思います。
料理を始めて、家電にも興味を持つようになったという永山さん。目下、狙っているのは、低温調理器。

料理をすると、アイデアが閃き、仕事のパフォーマンスも上がる。

料理をすると、健康になるだけでなく、脳にも良い影響があると、石川さんは言う。仕事の時間を削られてしまうと思いがちだが、むしろ、その逆。仕事から離れて、無心で手を動かして、料理をすることによって、無意識に考えが整理され、良いアイデアが閃くのだそうだ。

永山 料理を始めて、出来上がりをイメージしながら、手を動かしていく楽しさと、無心になれる心地よさに気づきました。食材を考えて、買い物に行って、食材を切って……って、ご飯を作るために動いている時間に考えていることの方が、家のソファに寝転がって考えていることより、いいように感じます。

永山
料理を始めて、出来上がりをイメージしながら、手を動かしていく楽しさと、無心になれる心地よさに気づきました。食材を考えて、買い物に行って、食材を切って……って、ご飯を作るために動いている時間に考えていることの方が、家のソファに寝転がって考えていることより、いいように感じます。無意識にいろいろ考えているんですかね。
石川
実は、動くって、すごく大事なことなんです。例えば、動物の中でもホヤ貝(などは、ここに棲み着くって決めて、そこを動かなくなると、自分の脳を食べちゃうんですよ。
永山
えっ、脳を、ですか!?
石川
脳って、そもそも動くから必要なのであって、動かないんだったら、必要ないんですよ。だから、脳を使うためにも、動いた方がいい。その方が、アイデアも閃きやすい。料理中に無心で手を動かしている時も、脳は無意識下でちゃんと考えてくれているんです。“考えなきゃ”って、意識して考えてしまうと、どうしても視野が狭くなってしまう。無意識下で考えてもらった方が、発想が豊かになるんです。
永山
たしかに、具材のカットの仕方をどうしようかとか、先のことを考えながら料理している時は、無意識ですよね。アイデアみたいなものは、その後、お風呂に入った時に閃いたりしますね。
石川
そうなんですよ。行き詰まって散歩することがあるじゃないですか。散歩の時にはいいアイデアが思いつかなくても、戻ってきた時に、ふっと閃いたりする。アイデアって、バーッと動いて、ふっとリラックスした時に、ポンと出てくることが多い。それは、散歩や料理をしている時にも、無意識下でちゃんと考えを整理してくれているからなんですね。料理に限らずですが、人は体を動かすことでやる気も生まれてくる。やる気を出してから動くわけじゃない。だから、料理でもなんでも、まず体を動かした方がいいんです。
永山
たしかに、料理をするようになって、朝起きて、ダラダラしている時間が減ってきたなっていう実感はあります。起きる時間自体も早くなって、それまでコンビニに寄って、サンドイッチとコーヒーを買っていたのが、タンブラーを買って、家でコーヒーを淹れて持っていくようになりました。でも、そんなちょっとしたことで、車の運転をしていても、目の開き方が変わってきたというのは、感じますね。
永山さんは、撮影中も石川さんにあれこれ質問。対談後、永山さんはクラシックカーを自ら運転して仕事場へ、石川さんはかまくらを作りに山へ。

食に関わる時間を増やすと、心はもっと豊かになる。

常に時間に追われがちな現代人は、料理も時短にばかりこだわり、それ自体を楽しめなくなっているのではないか、と石川さんは考える。実は、フライパンが普及し、食材を炒めるという調理法が一般的になったのは、戦後、それも昭和30年代以降のこと。それまでの日本は、短時間で仕上がる炒め物ではなく、時間をかけて煮込むという調理法が主流だった。家にいる時間が増えたいまは、時間に追われない、日本に脈々と続く“煮る”という調理法を見直すいい機会だという。

石川
昔は、かまどに薪をくべて、料理をしていたじゃないですか。その薪も、半年ぐらい置いて乾燥させる必要があるから、割ってすぐには使えない。つまり、半年後に料理をするために、今日薪を割るわけです。その薪は、60年、80年と年月を経て太くなったものを切って作る。そもそも日本人は、そういうゆったりとした自然のリズムに合わせて、料理をして、生きてきたんですね。
永山
自然との共存も、食事が中心だったんですね。
石川
ところが、フライパンの登場で、料理も時間に追われる“炒める”という調理法が主流になってしまった。フライパンを使って料理をすると、忙しいでしょう。強火で炒めることが多いから、放っておけない。その点、じっくり時間をかけて火を入れる煮物は、放っておいてもいいので、その間に別のこともできる。
永山
実際、そうですよね。自分も別のことをしていますね。
石川
昔ながらの“でこん汁(大根汁)”という料理があるんです。料理といっても、囲炉裏に鍋をかけて、そこに大根を入れて、水を張って、ちょろちょろ火を入れていくだけ。放っておけばいいから、その間、農作業ができる。で、匂いがしてくると、“あ、煮えたな”ってわかる。しかも、農作業をしていたその時間で、素材本来の味が出てくる。煮物という調理法は、時間の使い方がとても豊かなんです。永山さん、キャンプをする時は、炒め物より煮物の方が多くなりませんか。
永山
そうですね。煮込みって、味に深みが出ますし、同じ煮込みでも、家のガスコンロとでは熱の入り方が違うので、おいしさも格別なんですよね。“うんまー”って大自然の中で、笑っちゃったりしてます(笑)。
石川
人間って、最初は強い刺激に反応するんだけど、だんだんと、そういう弱い刺激にも反応できるようになる。そうすると、人生が楽しくなりますよ。大根一つとっても、上(首)の方と、下(尻尾)の方では味が違う。それがわかってくると、料理ももっと楽しくなる。実際、煮込みをする人は、増えているんじゃないかな。


時間に追われるように、強い刺激を求めてきた人たちの意識が、この1年で変わってきたということですか。

石川
それもありますが、そもそも世界の人口が中年化してきていて、強い刺激に疲れているんじゃないですか。味噌汁旨いな、風呂はいいな、っていう方が気持ち良くなってきている。“ウェルビーイングは、喜怒哀楽の総和である”、という言葉があるんです。これまでは強い、ポジティブな刺激ばかりを良しとしてきたけれど、それだけじゃない、侘び寂びもいいものだよね、みたいな(笑)
永山
僕は自粛期間中、結構長い間、テントの中で過ごしていて。朝、キジの鳴き声で目が覚めて、川で食器を洗って、火をおこして、ご飯を炊いて、豚汁作って、暗くなったら寝るという毎日を送っていたんです。最初の頃はもう携帯ばっかり見て、充電したりしていたんですけど、そのうち必要ないなって思うようになってきた。そういう生活をしていると、食べることが、一日の中でのメインになってくるんですね。
石川
なるほどね。僕らはそれを“一日の中にハイライトがある”って表現するんです。それに向けて一日を過ごすということなんですが、現代人の生活って、いろいろなことを詰め込みすぎて、すべてがハイライトみたいになって、メリハリがなくなってしまった。だから、達成感が得られないんです。料理してご飯を食べることが中心になっていると、達成感がありますし、それは、とても豊かな時間の使い方だと思うんです。
永山
自分もご飯を作るようになって、小さな、いろいろなことが、脳にもいい影響を与えているんだなっていうことに気づけたし。健康に関しても、栄養素を調べて徹底的に管理するっていうのは難しいですけれど、そこに歩み寄れたっていうのは、自分の中ではかなり大きいですね。
石川
永山さん、米や野菜は作っていないんですか?
永山
そこまでは、やっていないですね。
石川
以前、将来に不安が少ない人って、どういう人なんだろうって調べたことがあるんですが、資産があろうが、なかろうが、将来への不安って、大なり小なり誰もが持っている。どれだけ資産があっても、不安が消えるわけじゃない。だけど、家庭菜園をしたり、自炊している人は、将来に対する不安がすごく少ないことがわかったんです。それは、たぶん、食べることができれば、どうやっても生きていけるという自信が生まれるからだと思うんですよ。
永山
一から食べ物を作るっていうことですよね?
石川
農作物を作ると、結構、たくさん収穫できるので、周りの人に配るんですよ。そうすると、今度はその人たちから、別のものが届くようになって、交換し始める。そういうふうにしていると食べ物に困らないから、何があっても大丈夫だろう、と思えるようになるみたいです。私、今年からね、米を600キロ、作るんですよ。福岡県の糸島で。それって、やろうと思えば、皆ができることですよね。私、今年からね、米を600キロ、作るんですよ。福岡県の糸島で。

永山
農地を買ったんですか?
石川
いや、地元の方に“一緒にやりませんか”って誘われて、一緒に作るんですけどね。もうすぐ、田植えが始まるんです。
永山
楽しそうですね。そういうの、好きなんですよ
石川
ぜひ、やってください。料理だけでなく、家庭菜園までやったら、人生、これでOKだと思えるようになりますよ。

対談中、石川さんの話に実に真剣に耳を傾けていた永山さん。「研究されている方の話は、ほんとに面白いですよね。自然と共存していくのって、食事が中心だったんだなって。“煮る”調理法の良さも納得できましたし、自分でもこれから、筑前煮とか、意識的に作っていきたいなと思いました」と、さらに興味が増した様子。家庭菜園はさておき、対談を終え、改めて「これからも料理を作っていきたい」という思いを強くしていた。

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