BRUTUSの犬特集にも登場する、編集部のアルバイト犬・犬井けんの生みの親でもあるほしよりこさん。あらゆる情報がインスタントに手にはいる今だからこそ感じる、BRUTUSならではの世界との向き合い方の魅力を語ってくれました。
「ノスタルジックとせつなさが込み上げてくる」
BRUTUS史上最高の表紙だと思います。BRUTUSのロゴと特集タイトルの「BOYS’ LIFE」のレタリングがウォルフガング・ティルマンスの写真の上に見事に配置されていて、男の子が初めて折った紙ひこうきが現実の乗り物となったようなストーリーを感じる。この先時間を経てどんな時代になっても、永遠に男子的な青春を表現しているよう。誌面にある佐内正史さんが撮影した愛車の写真にも強く惹かれていて、見るたびに不思議なノスタルジックさとせつなさが込み上げてくる。さらにホンマタカシさんと一緒にロンドンのスタジオを訪ねたティルマンスのインタビューが白眉。インタビューに対しての彼の真摯な答えは、時を経て繰り返し読んでも新しい気づきを与えてくれます。この号は油絵を描いているときや休憩中にしょっちゅう開いて見ていたので、うっかり絵の具を拭く雑誌と勘違いして広告のページで油絵の具を拭いてしまった跡が残っているのですが、それも今見るとちょっといい感じです。
「いくつもの未知の扉を開けてもらった」
BRUTUSからはこれまでたくさんの刺激を受けてきましたが、なかでも海外の方々のインタビューや、動画のような写真のアングルに影響を受けたと思います。スクラップしたり、コラージュして絵を描くこともありました。とくに写真の美しさから保存しておきたくなる雑誌でした。いくつもの未知の扉を開けていただいたと思います。特に映画とアート、旅については今につながる多くの刺激を受けました。BRUTUSという雑誌は、「現場」ということを徹底していると思います。その徹底していることへの贅沢さと尊敬を感じます。足を運び、実際見る。その臨場感が伝わる記事は、読んだ後に自分の血肉になるようです。私は知恵のある人に惹かれます。どこにでもある、誰でも手に入れられるなんでもないものを、ちょっとした工夫で誰も思いつかない形に仕上げるセンス。そういうことをできる人や作られたものは、足を使って探さなければ見つからないのだと最近つくづく思います。世界的なパンデミック下に生き始め私は自分と国の政策との距離や隔たりを感じています。もはや表現者や情報発信者などの文化に関わる人も政治に無関心を貫くことは不可能だと思います。私たちがそれぞれの仕事や役割に誠実に向き合う。それそのものが個人の政治の一歩だと思います。噂をまことしやかに書いたり、憶測で締めくくったり、手近な資料で作られた情報誌が溢れている世界で、BRUTUSからは「対象との親密さ」をまっすぐに伝えてもらえると感じるのです。
- Text/Yuriko Kobayashi
