本誌連載「おなやみ相談室」のコメンテーターとしてもおなじみの箭内道彦さん。創刊号からのファンということで愛読歴は40年! BRUTUSを愛し続ける男が選んだ最高の一冊は、読むたびに感じ方が変化する、永遠に色褪せない特集でした。
「秘密の引き出しに隠しておいたものが、全部詰まっていた」
まず、もう表紙が好きです。白い表紙で、『フランダースの犬』のネロとパトラッシュがいて、しかもこっちに視線を向けているんじゃなくて、どこか別のところを見ている。これがもうせつない。そしてタイトルが明朝体でしょ。明朝体って和風だとか繊細だとか言う人もいますけど、僕はすごくロックだと思うんです。ロックにもせつなさや情緒は欠かせないものですから、ああ、やっぱ明朝体だよねってものすごく共感します。で、表紙をめくると特集の扉にアラーキーのモノクロ写真が出てくる。屋上に愛猫のチロがウロウロしていて、恐竜とかインドゾウとかの人形が無造作に転がってる。これがまたたまらなくせつない。中でも特別な企画は、せつなさを感じる映画や文学、アート、出来事を集めたブックインブック「セツナイ33」。松井秀喜が甲子園で5打席連続敬遠されたエピソードとか、絵本『100万回生きたねこ』、荒井由美の『卒業写真』、さらには少女漫画家の陸奥A子まで! 僕は何を隠そう「せつない」が大好きな人間なんですけど、これまで誰にも教えたくなくて秘密の引き出しにそっと隠しておいたものが全部ここに詰まってたわけなんです。それはもう悔しいやら嬉しいやらで、とにかくたまらないわけですね。
「どんな特集をしてもいい意味で人間臭さが漂ってる」
ブルータスはポップカルチャーを扱う雑誌ですが、こうやって年に一冊くらいポツンと情緒や哲学みたいなことを扱った特集を作るんですよね。普段はふざけてばっかりいる中学生の同級生が、ある日突然真面目なことを言うとキュンとするじゃないですか。そんな感じで、ぐっときちゃうんですね。しかもファッションや映画の特集に比べると、こういう特集は売れるかどうか予想が難しいんじゃないだろうか。それでもセンシティブな人間の気持ちを扱った号を定期的に作り続けるのは、「今までにない面白い雑誌を作りたい!」という編集部の強い思いであり、気概だと思うんです。僕はそのアティチュードに胸打たれますし、同時に大きな包容力を感じずにいられません。そして何より、それはブルータスが掲げるポップカルチャーというものの奥底に、ロマンチックとかセンチメンタルみたいなあたたかくて繊細な感情が宿っている証なんだと思います。だからこそ食べ物であれ街であれ、どんな特集をしてもいい意味で人間臭さが漂ってる。僕が16歳からずっとBRUTUSに憧れ、ときにその視点や姿勢を仕事の手本にし、今も変わらず自分に欠かせない存在として大切にしている理由は、そういう部分にあるんじゃないかと思うんです。
- Text/Yuriko Kobayashi
