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北海道〈厚岸蒸溜所〉を尋ねて。日本人の感性でアイラモルトを造ったなら、どんな酒ができるのか?

世界のウイスキー愛好家が注目する日本。呼応するかのように、各地で蒸留所が生まれ、熟成庫にはリリースを待つウイスキーがいる。本当に世界に比肩するウイスキーとなったのか?日本の造り手の元を訪ねた。

Photo: Kei Maeda / Text: BRUTUS

「日本人が郷愁を感じられるような味。
ジャパニーズアイラモルトを目指して」

牡蠣の名産地。恵まれた泥炭層と、そこを通って濾過された清冽な水。潮の香り。そして冷涼湿潤な土地。ウイスキー好きなら、このキーワードだけでピンとくるだろう。スコッチウイスキーの聖地・アイラ島の特徴だ。

日本人の感性でアイラモルトを造ったなら、どんな酒ができるのか。厚岸蒸溜所は、この壮大な試みに綿密な計画と日本人らしい丁寧な仕事で挑戦している。

「厚岸に場所を構えたのは、まさにアイラと同じ環境がここにあったからです」。所長でありブレンダーの立崎勝幸さんは語る。厚岸町に足を踏み入れれば、目に鼻に肌にその意味を感じるだろう。町には名産である牡蠣の看板がそこここに。潮の香りと立ち上る海霧。

「日本のウイスキーの源流が、竹鶴政孝が学んだスコットランドにあるならば。スコッチを学ぶ必要があると思っています。中でもアイラ島という小さな土地に数多くの蒸留所が集まっている、それにはきっと意味があるはずだ、と」

初めはスコッチの造り方を教科書通りに踏襲。そこで蓄積された経験と厚岸の気候などを鑑みながら、“らしさ”を年ごとに加える。

「ピートも厚岸、酵母も地元の野イチゴから抽出。樽も地元で間伐したミズナラを使用。熟成は厚岸の空気。特に道産の大麦を使い始めてから感じるのは、子供の頃、こたつの上に置いてあったミカンやサツマイモのような郷愁を誘うニュアンス。この絶妙な深みと奥行きこそが、ジャパニーズアイラモルトの鍵だ、と思っています」

蒸留所を作って6年目にして、高い評価を得る厚岸蒸溜所。

「ウイスキー造りにおいて、原酒造りは1%の作業。99%は熟成といわれています。僕たちが関われる1%のポテンシャルをいかに高めるか。原酒の段階で、“売ってください”と言われるほどのものを造っていきたいと思っています」

北海道〈厚岸蒸留所〉外観
厚岸湾から歩いて数分。丘の上に立つ厚岸蒸溜所の第3・第4貯蔵庫。朝夕は海霧に包まれる。来年の夏には、第5貯蔵庫が完成する予定だ。