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『ハート・オブ・ダークネス』と『ホドロフスキーのDUNE』。苦悩を極めた名作と、妄想で終わった迷作をくらべてみたら

映画監督を追うドキュメンタリーの傑作といえば、『地獄の黙示録』撮影中のフランシス・フォード・コッポラを妻のエレノアが追った『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』と、アレハンドロ・ホドロフスキー幻のSF超大作『DUNE』をめぐる『ホドロフスキーのDUNE』。改めて観比べて、思わぬ符合点を発見した、と大島依提亜さんは言う。

text: Takuo Matsumoto

2人の名監督を結ぶキーパーソンは
オーソン・ウェルズ

符合点その1は、『地獄の黙示録』と『DUNE』が同じような時期に企画されていること。この2本が大手映画会社の企画会議で同じテーブルに乗っていたかもしれないなって。
『黙示録』は泥沼にハマりながらも完成し、1979年に公開されましたが、『DUNE』は頓挫した。そして『スター・ウォーズ』が作られ公開された。それが歴史なんだなって。

その2は、キーパーソンが共にオーソン・ウェルズであること。『DUNE』のハルコンネン男爵役にオーソン・ウェルズが当てられているし、そもそもホドロフスキーはウェルズの名作『黒い罠』のロングショットを宇宙で壮大にやりたいと語っているんです。

ドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』
身も心も財産も映画に捧げたコッポラ。
©2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

片やコッポラは、ジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』を原作に『黙示録』を作ったわけですが、この小説は、コッポラ以前にオーソン・ウェルズが映画化しようとしていて、予算超過で断念していた。
そして『ハート・オブ・ダークネス』が粋なのは、ウェルズによるラジオ版『闇の奥』のウェルズ自身の肉声と『黙示録』の映像を使って物語を語るところ。

とにかく、このドキュメンタリーにおけるエレノアの構成力は素晴らしい。コッポラよりも上を行くと思う部分は多々あるし、後の再編集版『地獄の黙示録 ファイナルカット』は、『ハート・オブ・ダークネス』の影響もあるんじゃないかと。

妻がいてこそ完成した映画
妄想のままがいい映画

そして、俳優に翻弄される2人。『黙示録』では、カーツ大佐をマーロン・ブランドが演じますが、ギャラがなんと「1週間で100万ドル」。えげつないなと思っていたら、ホドロフスキーは無謀にも画家のサルバドール・ダリをキャスティングしていて、ダリは「1時間10万ドル」を要求してその上を行っていたという(笑)。

これに関してはもう一つ面白い符合があって。『黙示録』の撮影に入るにあたり、マーロン・ブランドにコンラッドの原作を読んでおいてくれと頼んだのに、まったく読んでこなくて、コッポラが「マジか!」と(笑)。
片や、ホドロフスキーは、フランク・ハーバートの原作『デューン』を読まずに映画化を決めたという(笑)。いわく「友達がいいと言ったから」って、これも「マジか!」。

ドキュメンタリー『ホドロフスキーDUNE』
『DUNE』はSF大作の予定だった。
©2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

とにかくこの2本は、どちらもギリギリの境界で、作られた映画と、作られなかった映画。『黙示録』はコッポラ自身が撮影中に疲弊しどんどん情緒不安定になっていく。でも、エレノアは、夫の危うい状態を見て「ワクワクする!」って言うんですよ(笑)。冷静な彼女がいたから、なんとかなったのかもしれない。

そして、ホドロフスキーは話し上手。彼の語りだけでこの映画は完結しているんです。つまり、実際に作られなかったからこそ「傑作」になった。その後『DUNE』はデヴィッド・リンチ版が作られ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ版が現在公開中。ホドロフスキーは『DUNE』を「魂の戦士」と呼び、「魂」のバトンは次世代に引き継がれているんです。