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2022年春リニューアルオープンしミュージアムショップ〈Gallery 5〉で最新の「アートブック」体験を

カタログ本でなく“表現”に到達した、シーンの現在へご案内。

photo: Kazuharu Igarashi / text: Asuka Ochi

最近、アートブックを開いていますか?

ここ数年、アートブックのシーンが、ますます賑やかさを増している。例えば、2009年にスタートした『東京アートブックフェア』は、19年には最多の3万5000人近くが訪れる盛況ぶり。コロナ禍を挟んでも人気は下火にならず、アートと接点のない人たちをも巻き込んで、新たなフェーズが訪れているように感じる。その裏で、いったい何が起きているのか。

アートブックフェアや、アートブック書店〈POST〉のディレクターを務める中島佑介さんが、今年4月、〈東京オペラシティ アートギャラリー〉のミュージアムショップのリニューアルで、メインのアイテムとして選んだのもアートブックだった。

「ミュージアムショップは好きでよく行くんですが、美術館にお土産的なものが多く並んでいることに違和感を覚えていて。展示で観たものと規模は違うけれど、同じ価値のものが買えるスペースにしたいというのが、一つのコンセプトとしてありました。だから、リニューアルしたショップでは、いわゆるお土産品は最小限に、アートブックをメインにして、親和性の高い作品やマルチプルを展示販売しています。

作品を観て、作家のことやアートに関して興味を持った時、本というのはすごく重要な知識を得るための道具になる。美術館に付随して、見るべき本がきちんと買える場所が日本にはあまりなかったので、そういう機能を持たせられたらというのもありました」

もともとの〈Gallery5〉という名前は引き継ぎ、ギャラリーにある4つの展示室に続く、5つ目の展示室という役割をより意識した関連本や作品が並べられている。企画展ごとに、美術館の展示スペースと同様、ショップの空間構成もガラッと変え、200〜300種類の本をセレクトするという。長年、アートブックに触れてきた中島さんは、最近のシーンの潮流をどう読むのだろうか。

「先日とある仕事で、企業が所有する写真集を蔵書として年代順に並べたんです。そうすると、本のデザインやテーマ、時代の傾向などが俯瞰で見えてくる。本を作る技術と並行して判型や印刷の精度も変わり、80年代頃まではA4サイズほどの一般的な本が多かったのが、90年代になると急激に大きな本が増える。特に写真集だからというのもありますが、当時は現物に近い形で作品を見せたいというのがサイズにも反映されていたのだと思います。

そして最近になると、また本が小型化していく。個人的な見解ですが、本というものが単純に作品の複製を載せるものではなく、表現するものに変わってきたからかなと想像しています。そうなった時に、見にくい大きさは体験としてよくないので、ある程度、本を手にする時の適正なサイズに収まったのかなと。写真集と同じくアートブックも、ただ単に情報を伝えるためのメディアではなく、読書体験を通して、作家の考えていることに触れられるものが多くなりました」

本もまた、アートである。

実際、最新のアートブック体験とはどのようなものか。本を手に取り開いてみると、その多様さに驚く。


「例えば、オランダのイルマ・ボームは、本自体が一つの表現だということをすごく意識しているデザイナーです。マルタン・マルジェラの展覧会の図録も、単に図版とデータをもらって一冊にするという方法論ではない。展示作品と準備風景を交互に配置し、さらに本のメイキングの要素も加えながら、展覧会と全く違う体験ができるものとして構築しています。

また、2020年以降のコロナ禍の環境を意識した本作りの潮流もありますね。展示会場に行くことが難しくなったため、それを彷彿とさせるような作りのものも増えました。2021年に行われたトーマス・デマンド展のカタログは、会場をポップアップ(飛び出す仕掛け)で再現していますが、アーティストの作家性もあり、表現としてもとても面白い本になっています。印刷方法も様々で、リアルな再現性を追求せず、作品と別の表現として昇華した本も多くなりましたね」

アートブックはどれも一通りという一様の世界を離れ、制約のない自由な表現として、色とりどりの形を手に入れたように思える。

「以前より、アート作品に準じた体験ができるものとしても捉えられていると思いますね。シーンの背景には、デジタル化する社会のなかで、リアルなものを手にしたいという価値観の広まりもあるかもしれません」

*書籍はPOST TEL:03-3713-8670で販売。