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世界的な名経営者が繰り返し読む百読本。何度も読みたいビジネス書指南 〜前編〜

名著『ビジョナリー・カンパニー』シリーズがついに1,000万部を記録して、ビジネス書の読書人口も増加中。そこで、人気起業コンサルタント、110万部ベストセラーの編集者、元Amazonバイヤーのカリスマ書評家が語ります。今ビジネス書を百読する理由とは?

text: Masae Wako

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1994年から続く『ビジョナリー・カンパニー』シリーズが世界累計1000万部を超え、2019年発行の『FACTFULNESS』翻訳本が日本で110万部。異例の大ヒットが続くビジネス書界隈で、今、何が起こってる?

土井英司

1000万部ってちょっとワケがわからない数字ですけど、なぜこんなに読まれているんでしょう? 

藤井孝一

『ビジョナリー・カンパニー』では優良企業に共通する特徴がクールに考察され、『FACTFULNESS』は「思い込みでなく事実に基づいて行動する」ことを掲げている。

ビジネスの一番本質的な部分が書かれていて、それを求めている人も多いから売れるんでしょうね。これらの翻訳本を編集した中川さんはなぜだと思います?

中川ヒロミ

ここまで売れた理由は、正直、わからないです(笑)。ただ、どちらの本もロジックや調査に裏づけられた斬新な内容と、人間味あふれる内容の両方が入っているのが、大きな魅力なのではないかと思います。

藤井

なるほど。今って要約も多いし、読みどころを紹介するYouTubeの動画も人気ですが、どう捉えてますか?

中川

ルールや仕組みのように要約で伝わる部分もあるけれど、組織の中で人を動かすのもモノや情報を売り買いするのも人間。たくさん読まれているビジネス書の中には、著者がどう考えてこの答えを導いたのかという「道筋」が書いてあって、丸ごと1冊読むことで追体験できるんですね。共感できれば自分の血肉になるし、そこがビジネス書の面白さだと思います。

藤井

僕はサラリーマンになったばかりの時、P・F・ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』を読んで結構感動したんですけど、その後、自分が管理職になって読み返したら、印象や面白いと思うポイントが変わっていて驚いた。さらに組織を飛び出して会社を始めたタイミングで読んだ時も、響き方が全く違ったんです。

中川

「前は響かなかったのに今はよくわかる!」っていうの、ありますね。

土井

僕はG・キングスレイ・ウォードの『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』を学生の頃から何度も何度も、それこそリアルに100回読んでいて。毎回発見があるんですよ。

若い頃の、切れ味鋭い戦術みたいなものを知りたい時にも役立つし、齢を重ねて哲学的なことを学びたい時も使える。ビジネスって高度になるほど話が抽象的になるんですけど、この本には抽象と具体がいい塩梅で書かれている。

経営者が“お守り”のように
繰り返し読む本とは。

藤井

同じ本でも自分の環境や立場によって「読め方」が変わるし、それがわかると2度3度と読みたくなります。

中川

「読め方」ですか。

藤井

どう読めるのか、理解の深度ですね。「肚(はら)落ち」という言葉がありますが、「まさに!」「同感!」「合点!」という実感をもって「読めたい」。

コンサルタントの大前研一さんは「読んだら3倍考えろ」と言いますが、ビジネス書は特に、自分の仕事や人生にどう役立てるかということまで考えて肚落ちして初めて、読んだと言える。

中川

「何回も読んでます」と経営者の方がよく言ってくださるのは、起業家ベン・ホロウィッツの『HARD THINGS』。自分が経営をするうえで辛かったことを書いているので、皆さん「読むと自分の経験が思い起こされて吐き気がする。それでも同じようなことが起こった時の助けになるんだ」と。

土井

「その人ならではの体験」は強く響きますよね。僕の周りでも『HARD THINGS』はスタートアップの人が本当によく読んでいます。なんでかっていうと、短期間で急激な成功や市場開拓を狙うスタートアップは、想定外のハードなことが起こり得るから。

特に環境がどんどん変化する今、「これをやればうまくいく」という本なんて全然信用できない。それより先達の体験を読んでストレス耐性をつけた方が断然よくて。辛さの渦中にいる時、「あと2段階くらいは、しんどいことが起こる」とわかっている人は、心が折れたりしないものなんです。

中川

『HARD THINGS』は電子書籍の割合がとても高くて、紙の8万部に対して電子が4万部も売れている。ある経営者は、紙と電子を両方買って電子書籍はスマホに入れ、「人を見る時は短所がないことを重視しがちだが、長所を見つけないとダメ」みたいな文章を、事あるごとに読み返すそうです。お守りのように身近に置いて読んでくださってるなんて本当にありがたい。

藤井

経営者の日常は、そういう言葉を必要とする岐路の連続だから。

土井

読み方でいえば、僕はビジネス書を3段階で活用すべきだと思っています。1段階目が「理解する」、次が「使う」。そして「使わせる」。ビジネスでは、読んで得た知識を知ってるだけでは足りない。使えるかどうかがすべてだし、その知識を部下や取引先にも「使わせる」ことができればなおいい。

僕がAmazonにいた時、当時のCEOジェフ・ベゾスは『ビジョナリー・カンパニー』を幹部にも読ませていた。その際、「この本は会社の経営にとってどう良くて、どう使えるのか」まで説明したからみんなが読み込んだし、組織全体にその文化を浸透させることができたんです。

カリスマ起業家は
ビジネス書+SFがお好き?

藤井

そういえば以前、いろんな経営者の愛読書を聞いて回ったんだけど、宇宙の話を読んでいる人が多かったな。

中川

ベゾスもカズオ・イシグロの小説やスター・トレックが大好きですね。

土井

アイザック・アシモフも読むそうですよ。僕の印象だと起業家は3種類の本を読んでることが多い。戦う武器としての理論書と、困難に立ち向かった同業者の体験談、そしてフィクション。起業とは現実にないものを夢見ること。バカにされるし反対もされる。それでも自分を信じる情熱を、フィクションは与えてくれるんです。

中川

SFからビジネスを学ぼうという流れは今後続きそうですね。早川書房さんから『SFプロトタイピング―SFからイノベーションを生み出す新戦略』という本も出ています。

土井

成功する起業家は、荒唐無稽な夢もリアリティも大事にするんですよ。『ビジョナリー・カンパニー』とアシモフをセットで読むベゾスみたいにね。

中川

最近の傾向としては、起業家の方が評価した本を、その人を尊敬している人たちがすぐに買い、それで初動がぐんと伸びるという流れがある。

スタートアップの方ってすごく忙しいし、ほかに学ぶツールもたくさんあるのに、ビジネス書から学ぼうとする意識が強いんですね。「この本に助けられたから」とSNSで熱心に紹介してくれて、そこから売れるケースも増えています。

土井

翻訳本だと上陸前から話題になっていて、みんなあらかじめ知っている。SNSでも「待ってました!」度が高いんです。本を作るプロセスの段階から見せて売ることも多いし、話題を先に作れた本が勝ち。

中川

ビジネス書は特に、コミュニティ志向が強くなっている印象がありますね。アメリカだとGoodreadsという、日本の読書メーターのようなSNSも盛り上がっています。友達設定ができたり長文のレビューが読めたり、時には著者も参加したりして。

藤井

ビジネス書の古典とされる数十年前の本でも、今の自分に置き換えて共感すれば、みんなすぐ発信するし。

中川

そして、誰が褒めているかが肝心で、雑誌や新聞の書評より「土井さんが、藤井さんが推している」という方が買う動機になる。

すごい人がすごいと言う本は、何がすごいんだろう?という興味から、名著が読み継がれていく。本は本だけで名著になるわけではなく、語り継ぐ人がいることで名著であり続けるんですね。

世界的な名経営者が何度も読み込む
百読ビジネス書。

SELECTOR:スティーヴ・ジョブズ(アップル創業者)

『イノベーションのジレンマ』

SELECTOR:ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)

『ビジョナリー・カンパニー』

SELECTOR:ベン・ホロウィッツ(起業家、投資家)

『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』

SELECTOR:リード・ヘイスティングス(ネットフリックス創業者)

『ビジョナリー・カンパニーZERO』

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